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自衛官の「予防訴訟」

  • 2018年02月22日

 1月31日、東京高裁での判決は、安保法案に関わる自衛官の地位について一つの示唆を示しました。

 この訴訟における現職の自衛官の訴えは、『自身が1993年に自衛官に入隊して「服務の宣誓」をした際には、集団的自衛権を認めた安保法は存在していなかった。しかし、集団的自衛権が含まれた安保法による防衛出動命令が下された際には、憲法違反だから服従する義務はないが、服従しないと懲戒処分となる恐れが有るので、あらかじめ服従する義務が無いことの確認を求める』というもので、いわゆる自らが入隊した時の自衛隊の任務と今の任務は大幅に変化し、変化後の防衛出動への服務義務は生じず、そのことをを拒否しても懲戒には値しないという「予防訴訟」に関わる控訴審で、東京高裁は一審の東京地裁の判決とは別の判断をし、改めて東京地裁に審理の差し戻しを命じました。

 一審での原告側の主張に対し、国側は『現時点で存立危機事態は発生しておらず、国際情勢を鑑みても将来的に発生することを具体的に想定しうる状況にないことから、原告の訴える危険や不安が存在することは認められない。』と訴えました。

 ん?ちょっと待って下さい。

 2015年9月19日に国会において数を頼りに強行採決を行い、集団的自衛権の行使を認める安保法制を可決した折り、政府は「アジアを中心に我が国を取り巻く安全保障環境は一層厳しさを増しており、我が国の存亡に関わる事態も想定される」として「同盟国とは密接に連携をしていかなければならず、同盟国への他国防衛が自国防衛につながる事が有り、我が国の存立に明確に影響が生じる場合は集団的自衛権の行使が必要である」と主張し、「北朝鮮からのミサイル攻撃の影響が我が国にも及ぶ」と危機を煽り、現在はそう言う状況に日本が置かれているので、安全保障法案が必要であると主張していました。

 一体どうなっているのでしょうか、全くの矛盾です。

 国民には日本の存続に関わる危機が目の前に迫っているから、早く安全保障法案を成立しなければならないとし、一方、当事者である現職の自衛官の訴えには、現時点においても将来的においてもそんな事態は想定できないと公式に主張しています。

 そして、そのことを立憲民主党代表の枝野氏が予算委員会で指摘しましたが、明確な見解はまったくありませんでしたし、その矛盾をマスコミはまったく掲載しませんでした。

 さて、この訴訟で、控訴審である東京高裁は『米国と北朝鮮との間で武力衝突が発生した場合には、北朝鮮は、我が国に在る米軍基地をミサイルで攻撃することは確実である』、と指摘し、『我が国の存立、国民の生命、自由及び幸福追求の権限が根底から覆される明白な危険が有り、存立危機事態における防衛出動命令が発令される事態は目前に迫っている』と現状認識を示し、『控訴人が所属する補給部隊等による後方支援が不可欠であることから、控訴人が所属する部隊が出動命令を命ぜられる事が無いとは言えない』と強調し、その上で『控訴人にも防衛出動命令に基づく本件職務命令が発令される具体的かつ現実的な可能性がある』とし、『存立危機事態における防衛出動命令に服従しないことや、その不服従を理由とする懲戒処分がされることにより、控訴人に重大な損害が生じるおそれがある』と認め、以上の理由から『自衛官による防衛出動命令に基づく本件職務命令に服務する義務が無いことを求める訴えは適法である』として、東京地裁に審理の差し戻しを命令しました。

 国は、安保法制の必要性の理屈を主張すればするほど、安保法制制定以前に入隊した自衛官の訴えが有利になり、多くの自衛官に対し職務命令を出せない事態に陥りますし、裁判で主張したように、存立危機事態は想定されないと主張すれば安保法制の必要性を自ら否定することになります。

 安保法制の違憲性にも波及するこの裁判を注視していかなければなりません。


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